大判例

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東京地方裁判所 昭和45年(ヨ)2221号 判決

主文

本件仮処分申請を却下する。

訴訟費用は申請人の負担とする。

事実

第一当事者の申立

一  申請の趣旨

1  被申請人は申請人をその従業員として取り扱え。

2  被申請人は申請人に対し昭和四四年一一月一日以後本案判決確定に至るまで毎週土曜日限り金六二一〇円を仮に支払え。

3  申請費用は被申請人の負担とする。

二  答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  申請の理由

1  申請人は昭和四三年一一月一〇日頃被申請人に雇用され、同年一一月一五日以降被申請人京橋支店で為替係に勤務していた。右雇用について申請人と被申請人との問において賃金は一時間一四〇円の時間給で毎週土曜日支払いとし、勤務時間は午前八時五〇分から午後五時一〇分までとするなどの約定をしたが、期間は特に定めなかつた。ところが、被申請人は申請人を解雇したとして昭和四四年一一月一日以降申請人をその従業員として取り扱わない。

2  申請人は、申請人が被申請人の従業員たる地位にあることの確認及び賃金の支払いを求める訴えを提起すべく準備中であるが、共稼ぎの夫の賃金が平均月額三万五〇〇〇円であつて、申請人が被申請人から受けるべき賃金の支給なくしてその生活を維持していくことは不可能であるから、本案訴訟の結果をまつていては、著しい苦痛と償うことのできない損害をこうむることが明らかである。そして、申請人の一週間の賃金額は平均して六二一〇円である。

二  申請の理由についての被申請人の主張

1  申請の理由1は認めるが、同2は争う。

2  解雇の意思表示

被申請人は昭和四四年九月一八日に申請人に対して同年一〇月三一日限りで辞めてもらう旨の解雇の予告をした。申請人と被申請人との間における本件雇用契約は右解雇予告にもとづいて昭和四四年一〇月三一日をもつて終了した。

三  解雇の効力についての申請人の主張

1  右二2の被申請人の主張事実は否認する。ただ、被申請人が申請人に対してその主張の日に本件雇用契約につき合意解約の申込みをしたことはあるが、申請人は承諾しなかつた。

かりに、被申請人の主張どおりに解雇予告がおこなわれたとしても、解雇の効力を生じない。

2  解雇権の乱用

(一) 申請人と被申請人との間の労働契約関係は通常の期間の定めのないものであつて、決して臨時的に雇用されたのではなく、その解雇には正当な客観的・合理的な理由を必要とする。

(1) 被申請人は、申請人をパートタイマーということで雇用したが、雇用の期間については、被申請人の「あまり短かくては困る。いつまででも申請人の都合が悪くなるまで勤めてよい。」との意向に従い期間を定めなかつたし、また期間の点につき明示をしなかつた旨を主張しながら、その労働契約が通常の期間の定めのないものであることは否認する。しかし、被申請人の右主張はそれ自体本件労働契約が労働基準法二一条一号ないし四号記載の労働者とは全く異なるいわゆる通常の期間の定めのないものであることを自認している。そして、同法一五条一項は労働条件の明示を使用者に義務づけているが、労働条件の明示は労使双方にとつて是非必要であり、本件の場合も期間について特に明示がない以上、その契約の本質は期問の定めのないものである。

(2) 申請人は昭和三九年三月被申請人八重州口支店に勤務して為替業務に従事し、昭和四一年一二月退職したが、退職後夫の賃金のみでの生活はほとんど不可能なため、丸の内建物管理に勤め、その後ヒロセボイラーで正社員として働らいていたところ、被申請人京橋支店のパートタイマーの就職の誘いを友人のAから受け、その際すでに右正社員として勤務しており、被申請人京橋支店への再就職の件については、右正社員の地位を捨てるのだから、単なる臨時で短期間の不安定な身分として就職することを最も心配したが、京橋支店での面接にて前記のとおりの安心できる労働条件だつたので快く応諾した。右事情に徴して本件労働契約が通常の期間の定めのないものであることは明らかである。

(3) 申請人は、行員が補充されるまでのつなぎとして、あるいは新入行員が仕事に慣れるまでの期間に限り臨時的に雇用されたものではない。そもそも、行員がいつ補充されるかもわからず、また新入行員が何人採用されて申請人の職場に配置されるかもわからないような不安定な内容をもつて雇用契約を律することは労働者の働らく地位を不安定ならしめ、その生活と権利を一方的に破壊するもので許されない。そして、特定の業務の完了までとか、行員が補充されるまでとか、新入行員が仕事に慣れるまでとかいう臨時的性格をもつ労働契約の成立を根拠づけるような特殊事情が当事者間の明示の合意によつて本件労働契約の内容に化体していない。かりに右のような特殊事情が当事者間の暗黙の合意によつて契約内容として化体しうるという立場にたつとしても、被申請人がその職場における慢性的な人員不足の実態にありながら、行員の補充を予定するよりもむしろパートタイマーと称する労働者の雇用をもつて人員不足に対処する人事政策に依拠するかぎり、新入行員が仕事に慣れるまでとか、行員が補充されるまでとかいう特殊事情は右合意の成立を裏づける客観的・合理的根拠にはなりえない。かえつて申請人の解雇を正当化するためにかつてにつくりだされた不当な口実であるにとどまる。

(4) 被申請人のパートタイマーの雇用期間については一年以内の期間を定めて採用する取扱となつているわけではない。申請人の場合において、一年以内の期間を定めることは、その合意があつたわけでもなく、また被申請人の内容意思にもなりえない。端的にいえば、被申請人内部においてパートタイマーの派遣要請ないし稟議等の手続を整えるための形式的事項にすぎず、労働契約の内容を左右するものではない。のみならず、昭利三九年三月から昭和四一年一二月までの間八重州口支店にはパートタイマーがいなかつたから、申請人は被申請人のパートタイマーの具体的な雇用実態につき知る術もなかつた。もつとも、京橋支店における申請人以外のパートタイマーは比較的短かい期間で辞めているが、いずれも自己の都合によるものであつて、被申請人側の事由ではない。このようにパートタイマーの雇用期間はもつぱらパートタイマーの都合によつて左右され、パートタイマーが自己の都合で退職するのもなかなか思うようにいかないのであるから、被申請人のいわゆるパートタイマー雇用の本音は慢性的な人員不足に対処するための安上りな労働力の確保であり、勤務期間の定めはなく、むしろ「いつまでもいてほしい。」ということを懇願するのが実態である。したがつて、ひとり申請人に対し、一年以内という予定なるものを解雇の根拠とすることは、労働契約の明示の内容そのものに違反し、さらに右のような予定自体が不合理きわまりないものであり、かつ申請人を解雇するための不正な手段につかわれたものであつて、絶対に許されない。

(二) 申請人は終始為替係に配属されて、銀行の主要業務の一つである為替業務に従事し、為替係の基本的かつ不可欠の恒常的な業務を正規の行員と同じ立場で遂行してきたのであつて、行員を補助する臨時的・補助的業務に従事したのではない。被申請人のパートタイマーは、賃金が時間給であること、各種社会保険の適用がないこと、労働時間が行員同様八時五○分から午後五時一○分まででありながら残業をしないことの三点を除いてその他の労働条件は行員と全く同一であり、名称はパートタイマーであつても、実質は行員と異ならず、ただ賃金の支払いと額とが異なり、元行員という熟練工をきわめて低い賃金で能率よく労働させるという合理化政策からら生みだされた常傭労働者である。ところで、労働省は「バートタイマーの本来の意味内容は一日、一週あるいは一月の所定労働時間がその事業所の一般労働者より短かいものであつて、毎日就労する者については一日の所定労働時間が一般労働者のそれより短かいもの、一週間または一月間に反覆して特定日に就労する者については一日の労働時間の長短を問わず、一週間または一月間の所定労働時間が一般労働者のそれより短かいもの」と定義づけ、さらに「パートタイマー雇用は、身分的区別ではなく、短時間就労という一つの雇用形態であり、パートタイマーは労働時間以外の点においてはフルタイムの労働者と何ら異なるものではない」という指導方針を明らかにしている。以上から明らかなように、申請人は被申請人の恒常的な業務に恒常的に雇用される労働者でおり、法律的には通常の期間の定めのない労働者である。したがつて、申請人の解雇には行員と同様合理的・客観的正当理由を要する。

(三) 申請人の雇用には行員の補充されるまでという特別の条件などはなかつたのであるから、行員が一名増加されたからといつて申請人を解雇することができるものではない。また京橋支店における行員一名増の要請の根拠がパートタイマー制を利用川するよりも行員による安定した勤務体制を整えるほかないとしたことにあるとすれば、まさに申請人を解雇するための行員一名増の要請をしたことになり、これほど非人間的で反憲法的なことはなく、いかに本件解雇が不合理であるかを示すものである。そして、女子行員の無理な転勤をおかしてまで堀留支店から京橋支店へ行員Bを転出させてしかも未経験業務の為替係に配置したこと、退職を申し出た行員Cに対し新入行員が慣れるまで勤務を続けてほしいとたのんでその雇用をさらに五月ほど継続させたこと、業務上の事由によらず、いわゆる一〇・二一暴力学生の襲撃に備えて男子行員一名を外交から為替へ係替させたまま事後も引き続き勤務させたこと、パートタイマーの経験者であるDに対し盲腸手術の予後において家庭訪問や電話などでしきりにパートタイマーとして働らいてくれるよう依頼したこと等からみても、本件解雇時京橋支店為替係は業務に見合う人員が確保されておらず、人員不足で悩んでいたことを雄弁に物語つている。しかも為替係の事業量は漸次増加の傾向にあつて、連絡の合理化や行員の習熟度の向上といえども、そのことは申請人の担当業務なり、為替係のテレタイプ以外の行員の担当業務には人員の点で全く影響がなく、行員の時間外労働が男女を含め平均三〇時間に及び、有給休暇の取得が困難であつたこととあわせて、当時京橋支店における為替係の業務量、労働実態はかえつて申請人の雇用継続を必要としていた。それにもかかわらず、銀行業務は本来行員でやるべきであるとの抽象的な原則論をかざしてパートタイマーたる申請人を職場から排除することはパートタイマー制度を美化し、宣伝し、その雇用に躍起になつている被申請人の人事政策に背反するものであつて、本件解雇の不当性・不合理はいよいよ明白である。

(四) 昭和四四年九月一八日に被申請人が申請人に申し入れたのは「辞めてください。」というものであり、法的には雇用関係の合意解約の申込みであり、おねがいであつた。そして同年一〇月三一日付内容証明をもつてはじめて「辞めていただきます。」と解雇の意思表示をした。すなわち即時解雇であるにもかかわらず、労働基準法すら守らないのである。本件解雇当時被申請人はパートタイマーの募集を大いに宣伝し、元行員の自宅を訪問してパートタイマーを探しており、さらに行員として再採用することを検討中であり、パートタイマーについても転勤・係替などを含む取扱を定めた就業規程の制定の準備中であり、また一年を超えたパートタイマーもいて、期間一年以内というパートタイマーの一般的取扱などは存在しなかつたのであるから、申請人が勤務し続けることを強く希望し、しかも勤務態度・業務能力において一般の行員に劣るものでない以上、当然被申請人は申請人に対して期間一年の予定ないし予測にこだわることなく為替係の仕事を続けさせるか、係替ないし転勤をさせるか、あるいは行員として再採用するかなど慎重に検討してしかるべきであるにもかかわらず、これらのことを検討すらしなかつた。もつとも、被申請人は申請人に対し解雇を通告してから東京支店を紹介しているが、これは京橋支店における申請人の解雇を前提とするものであり、東京支店での勤務は代理事務で同年末には再び解雇される不当なものであるから、これに応じなかつた申請人の態度はもとより正しい。

(五) 本件解雇の真のねらいは、パートタイマーなる美名のもとに低賃金をおしつけられ、自由に解雇され、退職金や各種社会保険は適用されず、労働組合への加入の道もとざされるなど、劣悪な労働条件のもとで無権利状態におかれている労働者に一層低賃金と無権利状態をおしつけ、維持していこうとして、被申請人はその休制整備を急いでいたのであるが、このような時期において、パートタイマーは必要なくなつたといえばやめていくのが常識であるという被申請人の説明等に対して反論するなど、労働者の権利に自覚しつつあつた申請人をなんらの合理的な理由もなく職場から排除して右体制整備に支障をきたさないようにするねらい以外のなにものでもない。

四  被申請人の主張

申請人は被申請人のパートタイマーとして採用されたものであるが、その雇用及び解雇は当時被申請人が制定し、運用していたパートタイマー制度の趣旨・内容に従つておこなわれたのであつて、申請人に対する解雇を権利の乱用であるとすることはできない。

1  被申請人のパートタイマー制度

(一) 制度採用の理由

被申請人において本採用の従業員すなわち行員のほかにパートタイマーを雇用することにした理由は次のとおりである。

(1) 被申請人の業務上の必要

被申請人においては、銀行の業務量が一時的に増加した場合、これに対処するため人員面において臨時の措置をとる必要が生ずる。また新店舗の開設、他部店への転勤などで業務に習熟した行員が転出したため他の行員が業務に習熟するまでの間その店で人手がほしくなるのでこれを補う必要が生ずる。行員とくに女子行員が退職し(女子行員は入行後三年ないし六年くらいたつと、春から秋にかけて結婚などのため退職する者が多い。)、業務量に比較して人員が不足するので、行員を新規採用し、何とか業務をこなせるようになるまで(銀行では稀有の例外を除き、行員は年一度定期的に新規学校卒業者から採用するが、入行後若干の教育期間を経て何とか業務がこなせるようになるまでにはおおむね三箇月を要する。)、一時的に人員を補充する必要が生ずる。そして、銀行の業務量が増加し、人員をふやす必要が生じたが、時季的に行員を新規採用することができないので、向後行員を採用してその行員が何とか業務をこなせるようになるまでの間臨時に人員を補充する必要が生ずる。以上のような場合において行員だけでは銀行の業務を処理するのに十分でないこともあるので、業務量と行員のアンバランスを是正し、業務の的確な運営を確保するため臨時雇用し、叙上の必要を充たすことのできる者を雇うという業務上の必要があつた。すなわち、銀行の業務量は経済情勢や経営施策を反映して増加の傾向を示すとともに、店舗の新設、移転の準備、事務システム変更の準備、配当金支払事務等によつて一時的に事務量が増加し、なお月間でも特定日に担当事務量が増加するなど、事務量の変動がはげしい。このような事務量の部分的な動きに対し、行員で対処するほか、部分的には弾力的にパートタイマーを活用することが効果的である。

(2) 退行職員側の希望

結婚などのために退職した元女子行員のうちには、家計を補助するためなどの理由で、家庭生活と両立しうる範囲内で、勤務による時間的拘束も短かくし、比較的自由な立場であまり責任の重くない仕事があればさせてもらいたいと希望する者があつた。

(3) 被申請人は、右(1)で述べたような銀行における人員不足を補い、かつは右(2)で述べた退職行員の希望にそうことでもあり、あわせて退職行員及ぴその家庭と銀行との接触を保つて業務の発展を図ることも考慮にいれ、銀行を退職した元女子行員をパートタイマーとして雇用するという制度をとりいれることとした。

(二) パートタイマーと行員との相違

(1) 行員は原則として新規学校卒業者に必要書類を提出させたうえ、人事部または東京総務部で厳重な選考をおこない、毎年春定期的に採用し、パートタイマーに比べてその採用手続はきわめて厳格である。パートタイマーの採用手続には、あらかじめ人事部に登録されているパートタイマー希望者の中から部店長の要請に応じて条件に合う者を派遣する方法と、部店長が退職女子行員の中からパートタイマーとして適当な者を選んで、人事部長または東京総務部長の承認のもとにいわゆる現地採用をする方法とがある。

(2) 行員は自己の担当職務を責任をもつて完全に遂行し、また将来責任ある職務につけるよう各種の教育をおこなつているが、パートタイマーは臨時の勤務であるし、本人に経験がある職務または経験がなくてもすぐできる職務を担当してもらうものであるから、行員に対するような教育はしていない。

(3) 行員は業務上の必要や本人の教育のために転勤を命ずることがあるが、パートタイマーについては部店限りの採用であり、その部店の仕事が終れば勤務は終了し、他の部店に転勤させることはない。また、行員については資格制度が定められて昇進がおこなわれるが、パートタイマーには昇進がおこなわれない。

(4) パートタイマーには、行員のおこなう業務のうち通常文書の受発信、筆写、来客の接待のようにとくに経験を更しない仕事、一般事務などで本人に経験のある仕事のうち定型的、機械的に処理することができる業務または高度の判断を伴わない業務で比較的責任が軽く、いつまでも行員に引き継げる業務だけをさせる。

(5) 行員の勤務時間は、原則として、平日午前八時五〇分から午後五時一〇分まで、土曜日は午前八時五〇分から午後二時までであるが、銀行業務の性質上、集計事務、勘定精査、残高照合、決算事務、報告資料の作成などの重要な事務処理のため時間外勤務になることが多い。給与は月給制で、社会保険はすべて適用される。パートタイマーの勤務時間は、家庭生活と両立しうる範囲内で本人の希望する時間帯を選ばせ、時間外勤務はさせない。勤務態様も連日のものとは限らない。給与は時間給で、社会保険は本人の希望によつて適用する。

(6) 行員は定年制があつて終身雇用・年功序列的取扱を受け、その権限と責任においてピラミツド型の階層を構成しているが、これに対し、パートタイマーは一年以内の雇用期間を定めて稟議をし、承認を受けて当該部店でパートタイマーを必要とする期間だけ雇用されることとなつている。したがつて期間を本人に明示しない場合でも必要期間が経過すれば、その時点で退職してもらうこととなつている。

2  申請人との雇用関係の経緯

(一) 雇用

(1) 被申請人京橋支店為替係の業務には、仕向、被仕向、代金取立、オープンコルレス(被仕向、仕向がある。)があり、それぞれ担当者が決つていて、昭利四二年一一月当時主任以下一二名が勤務していたが、同為替係の事務量は昭和四二年一一月当時月間約一万九〇〇〇件から昭和四三年四月頃ほぼ月間二万七〇〇〇件を超える漸増の傾向となり、同年三月から一三名、同年七月から一四名の行員が勤務していた。一般に新入行員が為替事務に慣れるまでには自分に与えられた仕事だけでも三箇月を要し、他の仕事との関連を覚え、為替係の仕事全体に慣れるまでには六箇月を要するのが通常であるが、同年八月段階では為替係に勤務している行員一四名のうち六名が経験歴六箇月未満であつたために為替係の事務能率が低かつた。そこで、京橋支店では行員の増員を要請するとともに、当面の人手不足を補うためパートタイマーを採用することとし、同年七月Eを、ついで同年八月Aを雇用して、いずれも為替係に配置したのが同支店でパートタイマーを使用した始まりである。

(2) 申請人は昭和三九年三月被申請人の行員として採用され、八重州口支店でAといつしよに勤務し、為替係を担当してて昭和四一年一二月退職した元女子行員であるが、Aの自発的な紹介によつてパートタイマーとして雇用されるにいたつた。右雇用にあたつて庶務担当支店長代理Fが申請人に対し「家庭の主婦という立場からいろいろ事情が出来ると思うが、いままでのパートタイマーを見ていると、折角慣れた頃に辞めるといいだすので、銀行としては、あまり短かくして辞められては困る。ある程度勤務してほしい。」と話したことはあるが、申請人が主張しているように「あなたの都合が悪くなるまでいつまででも勤めていい。」とはいつていないし、申請人を雇用した昭利四三年一一月段階では翌年春入行する新入行員がなんとか仕事をこなせるようになるまでには入行後約三簡月を要するので、せめてその頃まで(一一月から数えて八月くらいまで)は勤めてもらいたいと考えていたので、稟議では期間的に多少の余裕をみて昭和四四年一〇月までを雇用期間としたのである。

(3) このようにして申請人は昭和四四年三月に採用される新入行員が一応事務に習熟する期間を見越して雇用されて為替事務に従事したが、申請人も被申請人が行員の中途採用をしないので人手不足になつたときパートタイマーを雇用することを認識しており、雇用期間が明示されなかつたものの、申請人はパートタイーマーの勤務や条件等についてある程度の知識をもつていて、とくに反対の意思表示をしなかつたのであるから、事実上の慣習となつていたパートタイマー制度の趣旨に従つて本件雇用契約が締結されたというべきである。

(二) 解雇

京橋支店為替係の事務量は昭和四四年四月頃からいくらか増大する傾向を示し、その恒常的増大が見込まれたが、同年一〇月にいたれば、同支店内における内部の強化の効果が上り、テレタイプの習熟度も高まつて為替事務の事務能率も向上し、かつ、行員一名が転勤により補充されるなどのことが確実に見込まれるようになつたので、パートタイマーはいらないというかねての部内の意見に従い、申請人の雇用については再稟議しないこととし、それが見込まれた同年九月一八日に申請人に対し予定の満了する同年一〇月末日限りで退職することを申し出るにいたつた。

五  証拠(省略)

理由

一  申請人が昭和四三年一一月一〇日頃被申請人に雇用され、同年一一月一五日以降被申請人京橋支店で為替係に勤務していたことは当事者聞に争がない。

被申請人は、申請人は被申請人のいわゆるパートタイマーとして雇用されたものであつて、その雇用関係は被申請人のパートタイマー制度の趣旨・内容に則つて律せられると主張する。

そこで、被申請人のパートタイマー制度について、成立に争のない甲第四号証、第六号証から第一〇号証まで、第一七号証の一、二、弁論の全趣旨並びにこれにより真正に成立したと認める乙第九号証、第一〇号証総合すると、次のとおり認めることができる。

1  被申請人がパートタイマー制度を採用した理由

被申請人銀行の業務量は、わが国近年の経済成長のめざましい伸びとこれに対応した金融機関の経営施策を反映して逐年増加の傾向にある。そして、一時的には、被申請人銀行店舗の新設及ぴ移転の準備、事務処理体制の変更(例えば、オフラインからオンラインヘの移行)の準備のための過渡的事務、配当金、ボーナスの支払事務等の増加があり、さらに月間においても特定日に大会杜の給与払込に関する事務及ぴ手形交換枚数の集中による事務等の急増があつて、事務量の変動が甚しい。勿論通常予測しうる事務量の増加に対処すべき人員は、退職等による欠員の補充人員とともに、毎年春に新規学校卒業者のうちから被申請人の就業規則に定める本来の採用手続によつて雇用される職員(以下「行員」という。)によつて確保されているが、しかし年一回の定期採用時の労働需給の見透しと行員人事の制約された定期異動とをもつてしては十全に対処しえない業務量の起伏伸縮が恒常的に生起し、地区ないし部店によつては、配置人員に通常対応される事務量を凌駕して、あらたに行員が配置されるまで、または新入行員等の事務能率の低下がその習熟によつて回復されるまで、あるいは一回性の事務量の一時的膨脹が収縮するまで、もしくは三年ないし六年経過した女子行貝の不測の結婚退職による欠員が填められるまで、いずれも一年以内の矩期間ながら、人手不足に陥り、その人員補充が時務として要請される。このような事務量と人員の隔絶は、年間の途中において行員を採用することが著しく困難でもあり人事施策上得策でもないので、一時的かつ経過的措置としていわゆるパートタイマーを雇用して弾力的に調整する業務上の必要がある。

他方、近年の風潮ではあるが、家庭の主婦などで余暇の利用ないし家計補助の必要から、勤務時間の拘束、責任の度合等の点で家庭生活と両立しうるような比較的気楽な勤務としていわゆるパートタイマーに出るものがふえてきたことでもあり、被申請人銀行の女子行員で結婚などの事由により退職したもののなかに右のようなパートタイマーを希望する向があつたので、被申請人は、かねて家庭の人となつた元女子行員と銀行との接触を緊密に保持して長期的に銀行の支持者を獲得する目的で元女子行員の再組織をはかり、そのために生れた元女子行員の集まり「さんわ・グリーン・クラブ」の趣旨をも考慮にいれて、一時的な人手不足を補う臨時的措置としてパートタイマー制度を導入することとした。

2  パートタイマーと行員との雇用上の差異

(一)  採用手続

パートタイマーの採用は時期的に一定することなく、必要に応じて随時かつ迅速・簡易に進めることをもつて本旨とする。対象者は原則として被申請人銀行の元女子行員に限定され、新聞の求人広告等の一般募集はしない。採用方法には、あらかじめ人事部に登録されているパートタイマー希望者のなかから部店の要請に応じ、その条件に合う者を派遣する場合と、部店長が元女子行員のなかから希望者を探して面接したうえ適当と認める者を選んで人事部長あて申請する場合とがあるが、後者の場合が通例となつている。この場合には、パートタイマー派遣依頼書(いわゆる稟議書)に推薦書及び自己紹介書を添えて申請し、担当部長が採用を決定して申請部店に派遣することとしているが、実際の運用では、パートタイマーを必要更とする部店がパートタイマーの員数、雇用期間及び担当職務を電話で連絡してその承認をうるとともにこれと併行して探していた希望者と面接して採否を決め、手続上の書類の整備進達は事後的におこなわれる。

行員の採用手続は、行員が銀行業務の正常な運営を確保する担い手としてある程度永続的な雇用関係を予定し、かつ、長期的展望にもとづいて策定された人事計画に従つて採用されるものであるから、随時・簡易・迅速を本旨とするパートタイマーのそれに比べてかなり厳格かつ慎重に進められる。採用時期は毎年春の新規学校卒業者を対象にその前年中一回定期となつていて、いわゆる青田買いにみられるように、有為の人材を競つて集めるには定期採用に限られ、これ以外の途中採用はやむをえない例外でその人員も至つてすくない。選考にあたつては、行員希望者から就職申込書、在学時の成績の証明書、出身校の推薦書、戸籍謄本を提出させたうえ、人事部において適性検査、筆記試験、面接、身体検査等をして採否を決定する。そして、入行に際しては誓約書、身元保証書、身元保証人調書などを徴する。

(二)  勤務条件

行員の勤務時間は平日午前八時五〇分から午後五時一〇分まで、土曜日午前八時五〇分から午後二時までとするが、銀行業務の特殊性から時間外勤務になることが多い。これに対し、パートタイマーの勤務時間は家庭生活と両立しうる範囲内で希望時間帯(最長七時間三五分)を個別的に選択させ、時間外勤務はさせないし、勤務態様においても連続勤務のほか隔日または特定日だけの勤務など区々である。

給与について、行員は月給制で各種社会保険がすべて適用されるのに対し、パートタイマーは当然時間給制(昭和四四年一〇月現在時間給一時間一五〇円から一八○円までとする。)とならざるをえないし、社会保険は原則として適用しない。

行員は、その職務として割り当られた仕事を完全に遂行しなければならない職責があり、また将来銀行の責任ある職位につくことが予定され、かつ、銀行の業務執行ないし事務処理の方法が絶えず進歩しているから、各種の教育が施されるが、それには本部主催でおこなう集合教育(新入行員導入教育、技能教育、職格別教育、中堅・主任・役付の階層別教育)、各部店で管理者指導で仕事を通じておこなう職場教育、並ぴに英会話、コムピユーター等について行外に派遣しておこなう行外教育がある。しかし、パートタイマーはかつて経験した事務または経験がなくても容易に遂行しうるような仕事を臨時に担当する勤務であるから、右のような教育はいつさいおこなわれない。

昇進制について、被申請人銀行においては、事務行員、技術員、業務員のそれぞれに一級、二級、三級及ぴ主任の資格があり、その上位に副主事、主事、副参事、参事の役付者の段階があつて、すべて行員はそのいずれかに格付される資格制度をとつている。この格付は行員の能力、勤務実績、経験年数等によつて順次昇進し、処遇も格付に対応して与えられ、女子行員の役付者もある。しかし、パートタイマーについては、その勤務の性質上責任と権限のある職位につく昇進制をいれる余地はない。

行員は、教育・昇進、地区・部店間の業務量に見合う人員配置、その他業務上の必要にもとづいて転勤、係替等により異動をよぎなくされる。これに対し、パートタイマーは部店限りの必要にもとづいて雇用されるものであるから、雇用期間があらかじめ明示されなかつた場合においては、その部店での仕事が終れば当然パートタイマーの勤務も終了し、さらに被申請人のパートタイマーとして他の部店に転勤させられることはない。

(三)  担当職務の種類及ぴ責任の度合

パートタイマーは被申請人の業務遂行を一時的に補完するものであるから、その職務はもともと行員に割り当てられるべき業務の一部に属し、行員の職務と全く別個に定められるものではありえない。しかし、パートタイマー制度の趣旨に由来する勤務の制約上必然的に一般銀行業務のうち相対的に責任が重いものまたは時間外勤務に直接つながるようなものには従事させられない点で顕著な差異がある。例えば、現金を取り扱うこと、直接顧客と交渉すること、係事務の総括に当ること、営業店経営資料の一部を作成すること、総合集計・勘定精査・残高照合の事務、日計表・その他報告資料を作成する事務に従事することはパートタイマーの職務に属しないとするのが一般的取扱でおる。パートタイマーに担当させる事務の典型的な例は、預金係では元帳の抽出、挿入、伝票類の集計、定期預金の期日案内、新規預りに対する礼状の作成、発送等であり、出納係では歳入金・公金の記帳及ぴ集計発送等であり、為替係では入出金明細の記帳、振込、代手渡りの顧客に対する電話通知、代手受託に伴うカナタイプによる伝票作成、郵便物の処理等であり、貸付係では本部への稟議書・報告書の清書、資料整理等であり、これら経常的業務に属するもののほか、臨時的な業務としては、索引簿、印鑑簿の整理、ダイレクトメールの発送、新設店舗開設・店舗移転等の挨拶状の発送などがあるが、いずれも相対的に責任が軽く定型的で単純なものであつて、いつでも他人に引き継げられる内容程度の職務に限定される。しかし、行員については、銀行業務の正常な運営を確保する担い手としてその担当業務に限定はありえない。

(四)  雇用期間

パートタイマーは短期間の雇用を本旨とし、被申請人内部におけるパートタイマー採用の申請及ぴ承認にあたつて、パートタイマーを申請する部店の業務上の必要性が、たとえば、新入行員の仕事に慣れる六月末までとか、年末賞与受入のピークをすぎる一二月二〇日までとかいうように、具体的に明らかにされたうえ、その期間の見込みに応じて、最長といえども一応一年を目途に限定されるが、おおむね三箇月あるいは六箇月前後の雇用期間のものが多い。とくに当初予定した雇用期間を超えて引き続きパートタイマーを必要とする事情がある場合には、そのパートタイマー本人につきあらためて雇用の申請・承認手続を経て雇用が継続される。そして、パートタイマー採用の申請・承認手続において予定された雇用期間がパートタイマーに明示されなかつた場合においても、その期間を経過する時点で退職してもらう建前である。ちなみに、昭和四四年一〇月末現在における被申請人のパートタイマーは一六一名であるが、その雇用期間別人員は、一月未満一二名、一月以上四月未満六三名、四月以上七月末満三〇名、七月以上一年未満四〇名、一年超一六名である。

これに対し、行員は満五五歳に達したときに退職となる定年退職制の定めがあつて、いわゆる終身雇用・年功序列型の雇用体制が確立されている。

(五)  その他

パートタイマーは右(一)から(四)までのような特色ある雇用形態に属するものであるから、被申請人の一般従業員である行員に対して適用される就業規則はパートタイマーにそのまま適用されることはない。また、被申請人に対して団体交渉権を有する唯一の労働組合でいわゆるユニオン・シヨツプ条項の労働協約を締結している三和銀行従業員組合はパートタイマーの加入を認めていない。そしてパートタイマーの採用人員及ぴ雇用条件は右労働組合員すなわち行員の利害休戚に影響するものであるから、被申請人はその策定につきあらかじめ従業員組合に諮つてその諒解をうることとしている。

3  パートタイマー制度の運用の経過

昭和三五年四月の被申請人の新入行者一〇六三名は前年の昭和三四年の秋の定期採用者であるが、前年比二二四名増の相当大幅な大量採用であつた。しかし、昭和三五年の下期になつて新設店舗二店の開設が予定され、かつ、女子行員の結婚等による退職が増え、さらに一〇〇名程度の行員の補充が必要となつて、その対策が検討されたが、期中にかなりの数の行員を中途採用することは過去にも例がなく事実上不可能であつたので、同年下期から翌昭和三六年四月に定期採用により新たに入行する行員がある程度仕事に慣れる同年六月までの約七月間暫定的に被申請人の元女子行員をパートタイマーに雇用することとしたのが被申請人のいわゆるパートタイマー制度の発足である。当初は京阪神地区を主に約一〇○名を採用して昭和三五年一一月から昭和三六年六月までの期間パートタイマーに雇用する予定で、従業員組合にも提議し、その諒解をえてこれを実施したが、期間中最も多い時で四五名程度の雇用実績であつた。しかし、パートタイマー制実施の効果は、以後各年一〇〇名を目標にしながら三〇名から四〇名程度の雇用にとどまつていたにもかかわらず、十分評価されるものがあつたので、昭和三九年一一月以降は、パートタイマーの雇用を下期に限定していた従来の枠をはずし、勤務時間について平日午前八時五〇分から午後五時一○分までを原則としていたのを改め、連続勤務でも勤務時間帯を多様に設け、あるいは月のうちの特殊日のみの勤務、あるいは隔日、もしくは週・月の特定日のみの勤務など断続勤務もできるようにしてひろくパートタイマーの個別的選択を認め(これについても従業員組合の諒解をうる。)、制度の基本的事項は変更されることなく、きめこまかい運用を図つてきた。

なお、被申請人は昭利四四年一一月に従前のパートタイマー服務要綱に代えてバートタイマー就業規程なるものを制定したが、制度の建前ないし運用の基本を変えたわけではなく、同年七月におこなわれた就業規則の改訂に伴い、その一環としてパートタイマー制度につき従来の運用の成果を集約してその整備充実を期したものである。これによると、例えば、パートタイマーを女子臨時嘱託と称し(二条一項)、雇用期間を原則として六月以内として、必要に応じて更新しうるものとし(二条二項)、転勤または係替を命じることとしているが(三条)、パートタイマーが臨時的雇用であることをその名称によつて明らかにし、また雇用契約にあたつて期間を明定することとして一おう六月以内と定めたことから、雇用期問の途中で当該パートタイマーの仕事が終了したときは、残存期間の雇用関係を維持するために係替または転勤を命ずることとしたものにほかならない。しかし、パートタイマーの転勤事例はまだ一つも存しない。

右1から3までのように認めることができ、反対の疎明資料はさらにない。右の認定事実によれば、被申請人のいわゆるパートタイマーは、被申請人の業務上の必要にもとづいて通常一年以内の短期間に限り、その期問の定めがあるといなとを問わず、臨時に雇用されるものであつて、女子臨時嘱託の名称にも表象されるとおり、職場における身分として行員とは明確に区別される雇用形態に属するといわなければならない。もつとも、被申請人のバートタイマーでその勤務時間帯がいわゆるフルタイムの行員と変らないものは、本来の意味でいうパートタイマーの呼称にそぐわないが、そのために被申請人のパートタイマー制度の臨時的雇用の実体が変るわけではない。

二  申請人と被申請人との本件雇用契約について、期間の定めのないことは当事者間に争がなく、かつ、その契約の締結に際し、被申請人が申請人に対して臨時的雇用であることを明示しなかつたことは被申請人の認めて争わないところである。

しかしながら、申請人の本人尋問の結果(後記措信しない部分を除く。)及びこれにより真正に成立したと認める甲第一号証、第一六号証、弁論の全趣旨により真正に成立したと認める乙第一三号証、第一四号証、証人Gの証言並びに弁論の全趣旨をあわせると、申請人は、昭和三九年三月に被申請人の行員として採用されて八重洲口支店に勤務し、昭和四一年一二月に退職したのであるが、その退職が同支店における対人関係のまずさからきた不本意のものであるうえ、夫婦共稼ぎの必要性がいよいよ嵩じてきたときでもあり、それに女子行負の退職者の集まり「さんわ・グリーン・クラブ」の会員であつて被申請人に対し愛着をもつていたところ、銀行採用同期の元女子行員Aが京橋支店為替係でパートタイマーをしていながら近いうちに退職することを予定して昭和四三年一〇月中旬に申請人に対し是非その後任にと勧誘したが、被申請人のパートタイマーはその雇用期間の点で不安があつて応諾を留保しているうち、当時八重洲通りにあつた勤め口「ヒロセ・ボイラー」が活気に乏しく仕事も面白くなかつたので、同年一一月一○日頃被申請人のパートタイマーでもよいと意を決し、Aの紹介により京橋支店でパートタイマーの採用面接を受けたが、その際申請人の配置先為替係の責任者であるG支店長代理がパートタイマーの期待に反するほどの短期間勤務の先例(あとでふれる。)を引きながら「どのくらい働けるか。」とたずねたのに対して「しばらく勤められる。」と答えたいきさつが認められるから、申請人は当時すでに被申請人のいわゆるパートタイマーが臨時的雇用であることを知つていたことがうかがわれ、これに反する申請人の本人供述部分は措信しがたい。また、前記甲第六号証、第七号証、第八号証の一、二、第一七号証の一、二、乙第一三号証、第一四号証並びに弁論の全趣旨をあわせると、京橋支店においてパートタイマーの採用面接に当る支店長代(庶務担当)Fは、申請人の採用面接の際申請人の八重洲口支店勤務前歴及び銀行採用同期のAの紹介のいきさつをすでに知つていたし、それに当時は被申請人のパートタイマー制度が発足して八年を経過し、その運用がようやく安定し、とくに被申請人の宣伝が申請人も会員となつている「さんわ・グリーン・クラブ」に浸透し、定着していた時期だつたので、被申請人のパートタイマーが臨時雇用であることは申請人の熟知するところでいまさら説明するまでもないとして、ただ給与、勤務時間、担当職務等の条件を明示するにとどめたが、申請人もその雇用条件についてさらに尋ねることなくして面接をおえ、ただ事務的に被申請人の内部関係において申請人を京橋支店為替係のパートタイマーとして昭和四三年一一月一五日から昭和四四年一〇月三一日までの期間雇用することとして被申請人のいわゆる稟議・派遣の手続が進められたことが認められる。以上の認定事実に本件弁論の全趣旨をあわせると、申請人の本件パートタイマー契約が期間の定めのない臨時的雇用であることにつき黙示の合意があつたと一応認めることができる。

申請人の木人尋問の結果中には「申請人は、そのパートタイマーの採用面接に際し雇用期間について『いつまででも申請人の都合が悪くなるまで勤めてよい。あまり短かくては困る。』とF担当代理からいわれたので、これを信用し、安心して勤めることとした。」旨の供述があり、前記甲第一号証中にも同旨の申請人の陳述記載がある。しかし、通常一年以内の短期間の臨時的雇用である被申請人のいわゆるパートタイマー制度の建前並びに制度運用の実態(前記-1から3まで)に照らして、被申請人においてみずから制度の枠を無視し、あえて相当長期間にわたるパートタイマーとして申請人を雇用することは、特段の事情のない限り、およそ蓋然性に乏しい。そして、前記甲第一号証、乙第一三号証、第一四号証、証人Gの証言並びに弁論の全趣旨をあわせると、被申請人京橋支店最初のパートタイマーであるEが昭和四三年七月一八日から昭和四四年三月三一日までの勤務期間を予定しながらはやくも昭和四三年九月三〇日に退職し、パートタイマー第二号のAが昭和四三年八月一日から昭和四四年三月三一日までの期間を予定しながら約三箇月の勤務にして琴で身を立てることを理由にやめたいといつてその後任のパートタイマーに申請人を紹介してくるようなことが相踵ぎ、パートタイマー制利用早々困惑する事態となつたので、F担当代理は、従前のパートタイマーが期待に反してあまり短期間の勤務でやめてしまうようなことから、一年を予定される申請人の場合において右のような勤務実績に終ることを危惧し、申請人に対して「家庭の主婦という立場からいろいろ事情ができるとは思うが、いままでのパートタイマーをみていると、折角慣れた頃に辞めるといいだすので、銀行としては、おまり短かくては困る。ある程度勤務してほしい。」というふうにいつて、臨時的雇用であるとはいえ、EやAのような短期間勤務の前轍を踏むことのないように期待して、その趣旨の要望をしたことを認めることができる。したがつて、申請人の前記本人供述及び陳述記載の各部分は、右認定の要望の趣旨とは単なる陰影(ニユアンス)の違いにとどまらず、被申請人のパートタイマー制度の枠を超えて相当期間の雇用関係の存続を志向するものであるとするかぎり、いずれも採用しがたい。さらに、成立に争のない甲第一一号証中「被申請人銀行の意向として『申請人の方から退職を申し出ることはできるが、勤務時間が短かいままの退職は困る。』旨が示された。」とある記載部分も、証人Hの証言中「G支店長代理は、申請人をパートタイマーとして為替係に紹介した際に申請人のことを『長らく勤めていただくから』といい添えた。」旨の供述部分も、いずれも、前記認定のF担当代理の要望の趣旨と同工異曲のもので陰影(ニユアンス)の違いがあるにすぎないというべきである。

なお、被申請人は、労働基準法五条一項の規定に従い、本件雇用契約の締結に際し、申請人に対して給与、勤務時間、担当職務等のほかとくに期間に関し臨時的雇用であることを明確に告げるべきであつた。ところが、ただ期間の定めのない臨時的雇用であることの黙示の合意があつたにとどまることはすでにみたとおりであるが、そのために木件雇用契約の効力に消長をきたすものではないというべきである。

三  本件雇用契約について、被申請人は昭和四四年九月一八日に申請人に対して解雇の予告をしたと主張し、申請人は被申請人の合意解約の申込みがあつたにとどまるとして争うけれども、証人Iの証言及び申請人の本人尋問の結果によると、同日被申請人京橋支店において同支店長Iが申請人に対し口頭で「同年一〇月いつぱいで辞めてください。」と告げたことが認められるから、右口頭告知により、同年一〇月三一日をもつて申請人との雇用関係を終了させる旨の被申請人の申請人に対する解雇の予告があつたとみるべきである。

ところで、右の解雇予告にいたる経緯について、証人Gの証言及びこれにより真正に成立したと認める乙第六号証、第七号証、証人Iの証言及びこれにより真正に成立したと認める乙第一五号証並びに証人Jの証言を総合すると、次のとおり認めることができる。被申請人京橋支店においては、昭和四二年末平和相互銀行と、昭和四三年四月秋田相互銀行と、同年五月日本相互銀行と、同年九月大生相互銀行とのオープンコルレス契約にもとづく銀行の集中店となつたほか、当時本田技研工業、東洋工業、日本コロムビア等の月賦販売手形の取扱店としてその代金決済がおこなわれるようになり、さらに中央信託銀行、東洋信託銀行等の金融機関からの代手取扱事務も増加したことから、為替係の事務量が激増し、しかも為替係に配置された行員一四名のうち為替事務の経験六箇月末満の者が六名もいて事務能率が低かつた。そこで、同支店長Jは、事務の手続等について事務部の臨店指導を受け、その改善をはかるとともに他係からの助勤もさせたが、為替係の人手不足を補うにいたらなかつたので、パートタイマーを雇用することとし、同年七月Eを、ついで同年八月Aを採用してそのつど為替係に配置した。これが京橋支店におけるパートタイマー雇用の走りであるが、まもなくEが同年九月に退職し、翌一〇月に入るとAもパートタイマーを辞めるといいだして同年一一月一〇日頃後任のパートタイマーに申請人を紹介するに及んで、はやくもパートタイマー制利用の限界を思い知らされる実情であつた。同支店為替係のパートタイマーは昭和四四年一月現在四名もいて、同年五月Kが退職していらい申請人一人だけとなつたが、当時の支店長Iはあらたにパートタイマーを補充することには消極的であつた。もともとパートタイマーに行員並みの職務遂行を期待するのは無理であるが、それなりの勤務実績も揚がらないので、できるだけパートタイマーの雇用を避け、つとめて行員だけの勤務体制を整えることが指向された。そして、同年七月当時においては、為替係の行員のうち未経験者四名に対し経験者九名というふうにその割合が向上して行員の習熟度が高まつてきたのと、支店内部の強化のための諸施策の実施に努めたのとが相俟つて為替事務の能率指数の上昇が顕著になつたし、かねて要請された行員増について同年一〇月には行員の異動により一名増員されることがいよいよ確実視されるにいたつたので、I支店長は、申請人の雇用については、いわゆる再稟議すなわちパートタイマー雇用継続の申請をしないこととし、したがつて当初の稟議・派遣の内部手続において予定された勤務期間の終了する同年一〇月三一日をもつて退職してもらうこととして、同年九月一八日に本件解雇予告をした。かように認めることができ、右認定に反する疎明資料はみあたらない。

四  本件解雇予告について、申請人は解雇権の乱用を主張するので、これを検討する。

1  前記二にみたとおり、本件雇用契約は期間の定めのない臨時的雇用であるから、申請人がそのような臨時雇用者ではないとする前提に立つての申請人の解雇権乱用の主張は、これにつきさらに考察するまでもなく理由がないから、排斥すべきである。

2  前記乙第一五号証及び証人Iの証言によると、I京橋支店長は、同店における為替係の事務量の恒常的増加に対処するために昭和四四年七月頃行員の配置増を要請したが、その際パートタイマーの稟譲・派遣という被申請人の内部手続のうえにおいては、申請人のパートタイマー雇用が同年一〇月三一日で終了する予定となつていたことを知つていて、これを計算にいれて増員要請に及んだことが認められるから、右増員要請には申請人との雇用関係の終了に備える反面があつたということができ、そのかぎりにおいて、結果的には申請人の解雇を予定した増員要請であつたといえなくもない。しかし、右の増員要請といい、解雇予定といい、前記認定の解雇予告に至る経緯に照らして、いずれも、被申請人の業務上の必要にもとづくものであり、その合理性があると解すべきであるから、右増員要請が「非人間的で反憲法的な」ものというのも、そのために本件解雇が「不当・不合理きわまる」というのも、ともに当らない。また、本件解雇当時における京橋支店為替係事務量の恒常的増加に申請人のパートタイマー雇用継続を短絡させることも、同為替係における当時の事務能率向上の趨勢及び行員による勤務体制の整備(すでに認定したとおり)を校量しないものであつて正当でない。そして、被申請人のパートタイマー制度は、すでにみたところによれば、被申請人の全雇用体制のもとにおいて局所的・弥縫的に機能する底のものであり、人事政策的には、いわゆる終身雇用及び年功序列型賃金体系の原則のもとにおいてやむをえずパートタイマーと称する臨時的雇用の間道を歩むものであるということができる。したがつて、I支店長がパートタイマーの雇用を敬遠して行員による勤務体制の整備強化を指向したからといつて、これをもつて被申請人の人事政策に造反するとみるのも当らない。

3  前記甲第一号証、乙第一五号証、申請人の本人尋問の結果により真正に成立したと認める甲第一五号証、第一六号証及び証人Iの証言をあわせると、I支店長は、本件解雇予告に際し、申請人に対して同年一〇月末で一年になり稟議・派遣の内部手続上の予定期限が到来すること、新入行員の習熟度が高まつて為替事務の能率が向上してきたこと、及びかねての増員要請にもとづいて同年一〇月中に行員一名の転入が予定できるになつたことによつて、パートタイマーを必要としなくなつた旨の解雇理由を告げたが、申請人がときには口頭で、ときには文書で雇用の継続を強く要求し、解雇には納得できないとの態度をとることに終始したので、このような申請人の出方に当惑もし、言い掛りをつけるものとして心外にも思つていたのであるが、そういうなかにおいても、同年一〇月一五日頃申請人から被申請人の他の部店への就職の斡旋を依頼されると、本部や他の営業店に問い合わせをし、同月三一日に東京支店でパートタイマーをさがしていることがわかると、申請人にそのことを話して同支店に行くようにしきりに勧め、ようやく一一月一九日にいたつて申請人の申出があると、これに応じて同支店に紹介の労をとり、このようにして尽力したにもかかわらず、申請人は、同支店勤務がパートタイマーで同年一二月いつぱいで終了するものであり、これでは解雇を二箇月延ばすだけのことであるとして、同支店行きを断わつたことが認められる。右の認定事実によれば、本件解雇にあたつて、被申請人は使用者として相当の配慮をしたということができるから、申請人の係替、転勤または再採用(行員として)等を検討すらしなかつたとして被申請人を非難するのは当らない。

4  申請人は、本件解雇の真のねらいは被申請人のパートタイマーという雇用体制の整備に障害となるべき申請人を職場外に排除するところにあつた旨の主張をするけれども、本件解雇予告のあつた以後はともかく、それ以前において申請人について右にいうような障害またはその虞があつたことの疎明はさらにない。

そうすると、本件解雇予告が解雇権の乱用であるとする申請人の主張は、主張自体理由がないかまたはその主張につき疎明を欠くものというべきである。とうてい採用のかぎりでない。

五  以上述べたところによれば、申請人と被申請人との間におけるパートタイマー雇用契約は本件解雇予告にもとづいて昭和四四年一〇月三一日をもつて終了したといわなければならない。

よつて、本件仮処分申請は、被保全権利の存在について疎明がなく、また保証をもつて疎明に代えることも相当でないから、これを却下することとし、訴訟費用の負担について民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

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